「噛む力で「脳の若さ」が変わる?歯の本数と認知症リスクを示した久山町研究

大阪府岸和田市の中村歯科です。
「よく噛んで食べなさい」——子どものころ、そう言われた記憶はありませんか?
噛むことの大切さは昔から言われてきましたが、近年の研究はその「噛む力」と脳の健康に、見過ごせない関係があることを示しています。

「歯並びが悪くてうまく噛めない」「奥歯が欠けたまま放置している」——そうした状態が長年続くと、将来の記憶力や認知機能に影響を及ぼす可能性があります。今回は2つの調査をもとに、口の健康と脳の健康のつながりをお伝えします。

老人咀嚼

1. 歯が少ないと認知症になりやすい?大規模な追跡調査でわかったこと

福岡県のある町で、60歳以上の住民1,500人以上を5年間追いかけた調査があります。調査の始めに歯の本数を記録し、5年後に誰が認知症を発症したかを調べたものです。

その結果、歯の本数が少ないほど認知症になりやすい傾向が確認されました。具体的には次のとおりです。

【歯の本数と認知症のなりやすさ(歯が20本以上ある人を「1」とした場合)】
  • 歯が 20本以上:基準(1倍)
  • 歯が 10〜19本:約 1.6倍
  • 歯が 1〜9本:約 1.8倍
  • 歯が 0本(総義歯):約 1.6倍

※年齢・性別・持病・生活習慣などの違いを考慮した数値

歯の本数と認知症のなりやすさ

Takeuchi K, Ohara T, Furuta M, Takeshita T, Shibata Y, Hata J, et al. Tooth Loss and Risk of Dementia in the Community: the Hisayama Study. J Am Geriatr Soc. 2017;65(5):e95-e100.

この傾向は、年齢や持病の違いを考慮してもなお確認されています。歯の数が少ないほど、認知症になりやすい傾向があることが、大規模な調査からわかってきています。

注目したいのは、入れ歯を使っている人も調査に含まれていた点です。入れ歯を使用していても、天然歯の本数の少なさが影響している可能性が示されており、「入れ歯を入れているから大丈夫」とは言い切れない面があります。

2. なぜ「噛む」ことが脳に影響するのか——3つの理由

では、なぜ歯が少なくなると脳に影響するのでしょうか。主に3つの経路が考えられています。

① 噛む動作が脳への血流を増やす

食べ物を噛む動作は、脳への血流を増やし、脳を活性化させることが脳の画像検査でも確認されています。歯を失って噛む機能が落ちると、こうした刺激が脳に届きにくくなり、脳の働きを維持する力に影響が出てくる可能性があります。

② 食べられるものが減り、栄養が偏る

噛む力が落ちると、かたい食べ物や食物繊維の多い野菜などを無意識に避けるようになりがちです。長い目で見ると食生活が偏り、栄養バランスが崩れることが脳の健康にも関わってくる可能性が指摘されています。「食べられるものが減った」という変化は、口だけでなく体全体の問題につながることがあります。

③ 歯周病による体の炎症

歯を失う大きな原因のひとつが歯周病です。歯周病が進むと口の中だけでなく体全体に慢性的な炎症が広がり、それが認知症の発症に関わる可能性を示す研究も出てきています。歯ぐきを守ることは、体の炎症リスクを抑えることにもつながります。

噛むことが脳に影響する3つの繋がり (1) (1)

3. 「噛む力」と「脳の働き」——複数の調査をまとめてわかったこと

別の視点からも、同じような傾向が報告されています。2023年に発表された研究では、20年以上にわたって行われた複数の調査をひとまとめにして分析した結果が報告されました。

噛む力が弱いと、認知機能テストの点数が低い

複数の調査を合わせて分析したところ、噛む力が弱い高齢者は、しっかり噛める高齢者に比べて、認知機能を測るテストの点数が低い傾向があることが確認されています。

認知機能に問題が出るリスクが約4倍

別の分析では、噛む力が弱い人では認知機能に問題が出るリスクが大きく上昇する傾向も一部研究では報告されています。ただし、調査ごとに対象者や調査の方法が異なるため、一つの目安として参考にしてください。

若い世代にも:ガムを噛むと頭の回転が速くなる?

同じまとめ分析には、若い成人を対象にした調査も含まれています。ガムを噛みながら問題に取り組んだ場合、噛まない場合よりも短時間の集中力や反応速度が上がる可能性があるという結果が報告されています。ただし、効果は一時的なものとされており、噛む刺激が脳に何らかの影響を与える可能性のひとつとして参考にしてください。

4. 「うまく噛めない」状態が続くとどうなるか

噛む力に影響するのは、歯の本数だけではありません。歯並びや噛み合わせの問題も、毎日の噛む力に直接影響します。

こんな状態は要注意

  • 奥歯が抜けたまま放置:食べ物をすりつぶす力が大きく落ちます。奥歯は噛む力の中心を担っているため、1本でも失うと影響は小さくありません
  • 上下の前歯が当たらない:前歯でうまく噛み切れず、奥歯に負担が集中します
  • 噛み合わせがズレている:一部の歯だけで噛み続けることになり、あごや周りの筋肉への偏った負担につながります
  • 歯がグラグラする(歯周病):噛むたびに痛みや違和感があると、無意識に噛む回数や力が減っていきます
  • こんな人は要注意

どの状態でも共通しているのは、「口全体でバランスよく噛めていない」ということです。こうした状態が何年も続くと、ご紹介したような脳への影響リスクが積み重なっていく可能性があります。

まとめ:口の健康は「全身の健康」の入り口

【この記事のポイント】
  • 歯が少ないほど認知症になりやすい傾向があり、1〜9本の人は20本以上の人と比べて約1.8倍というデータがある
  • 噛む動作は脳への血流を増やし、脳を活性化させる効果がある
  • 歯周病による体の炎症も、認知症の発症に関わる可能性が指摘されている
  • 噛む力が弱い高齢者は認知機能に問題が出るリスクが約4倍という分析結果がある(調査によって条件が異なるため目安として参照)
  • ガムを噛むだけで頭の回転が速くなるという研究もあり、若い世代にも無関係ではない
  • 歯の本数だけでなく、歯並び・噛み合わせ・歯周病も「噛む力」を左右する

「歯の治療は痛くなってから」と後回しにしていませんか?歯を守り、噛む力を維持することは、将来の脳の健康を守ることにもつながる可能性があります。今のお口の状態を確認することが、長期的な健康の第一歩です。

【こんなお悩みがある方はご相談ください】

  • 奥歯が抜けたままになっている
  • 噛み合わせがズレている気がする
  • 硬いものが噛みにくくなってきた
  • 歯周病の治療を受けたことがない
  • 歯並びが気になって、しっかり噛めていない
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虫歯・歯周病・噛み合わせ・歯並びまで、お口全体のトータルケアをご提供しています。「最近うまく噛めない」と感じたら、まずお気軽にご相談ください。


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参考文献
  • 1. Takeuchi K, Ohara T, Furuta M, Takeshita T, Shibata Y, Hata J, et al. Tooth Loss and Risk of Dementia in the Community: the Hisayama Study. J Am Geriatr Soc. 2017;65:e95-e100. doi:10.1111/jgs.14791
  • 2. Sta. Maria MT, Hasegawa Y, Khaing AMA, Salazar S, Ono T. The relationships between mastication and cognitive function: A systematic review and meta-analysis. Jpn Dent Sci Rev. 2023;59:375-388. doi:10.1016/j.jdsr.2023.10.001

本記事は情報提供を目的としており、特定の疾患の診断・治療を推奨するものではありません。口腔内の症状や認知機能に関するお悩みは、歯科・医療機関にご相談ください。記載の研究数値は各論文の報告値であり、すべての方に同様のリスクが生じるものではありません。本記事の医学情報は2026年時点のものです。